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創文社(僊石政太郎のこと その1)

 《創文社 1985年頃 画像大きいです》 現在、創文社は千代田区麹町2丁目に移転しているが、以前は千代田区一番町17-3にあった。『新版 日本近代建築総覧』(1983年)によれば、「建築年:大正13年、構造概要:RC2、設計者:僊石政太郎、施工者:不明」となっている。 設計者の「僊石政太郎」をGoogleで検索すると、最初にヒットするのが日本建築学会図書館デジタルアーカイブスで公開されている『建築學會パンフレット 第5輯第5號 特殊建築のデータ 其一』(1933年)だ。このパンフレットの冒頭を飾って、「歌舞伎劇場と映画館」というタイトルで自分の経験に基づいて、主に設備装置について各劇場のデータを比較しながら「二十余年間の変遷推移」を記している。 ところで、東京建築探偵団『近代建築ガイドブック 関東編』鹿島出版会(1982年)によると、僊石政太郎は「中央工学校で初め土木・電気を学び、再度入学し建築を学び直した。そのため最後のクラスでは級友よりも12歳も年長であったと言う。ふとしたことで、松竹の大谷社長と知り合い、松竹系の劇場を多く手がけた」そうだ。(話はそれるが、このパートは2月に亡くなった清水慶一氏が執筆を担当されていた。近代化遺産としての劇場を研究されていたのだろう。昨年4月、NHK「クローズアップ現代」で軍艦島等の廃墟を訪れる人が増えていることについて解説するため出演されていた際、体調が悪く、声がかすれていて健康が気にかかったが、早世されたのは残念でならない。) また、都市美協会編『建築の東京』(1936年)には僊石政太郎の作品として、帝都座、大勝館、新宿第一劇場、銀座興業株式会社が収録されている。このうち、銀座興業株式会社は演劇関係?の事務所ビルのようだが、それ以外はすべて劇場なのは上の逸話からも納得できる。  《帝都座》  《大勝館》  《新宿第一劇場 3枚共『建築の東京』より》 この「新宿第一劇場」はいわくがあって、以前にも触れた今和次郎編『新版 大東京案内』中央公論社(1929年、現在はちくま学芸文庫で覆刻が手に入る)の「盛り場」という章の「新宿」の中で、現在は大塚家具となっている位置にあった同じ建物が「新歌舞伎座」という名前で登場する。  《新歌舞伎座 『新版 大東京案内』より》 『大東京案内』いわく、「山手の歌舞伎界を代表する新歌舞伎座が、京王電車の沿線に、その宏壮な姿を現はした。開幕第一の舞台は昭和四年九月七日、吉右衛門一座に依って占められた。不景気知らずの満員つづきであったが、今後の盛衰はまだはつきりと予測できない」などと、きわめて冷めた見方をしている。筆者は、新興の盛り場で猥雑なエネルギーに満ちた新宿では、勢いの目覚しい時には「ノレンも草分けもあったものでは」なく、「老舗も新店もイカモノも名物も一しょくたにみんな一せいにスタートを切った」ので、伝統や格式は無くても、活気があって新しい、歌舞伎よりは「ムーラン・ルージュ」のようなレビューのほうが受けるはず、と睨んだのだろう。 案に違わず、新歌舞伎座株式会社は1933年、松竹興行株式会社に吸収合併された(Wikipediaより)。そのため、上の写真を比較すると気付くが、1936年に発行された『建築の東京』では、劇場名も「新歌舞伎座」から「新宿第一劇場」に変えられており、ライト風のファサードには派手なのぼりや看板がにぎやかに取り付けられている。 そうしたことも僊石政太郎の念頭にあったのか、先ほどのパンフレット「歌舞伎劇場と映画館」の終わりでは、劇場建築は客一人当たりの坪単価が「打算的方面の支配を受ける」から、設計者の理想とするようなホワイエが十分取れず、また観客の視線の確保も妥協せざるを得ない、と愚痴っている。 そこで、せめてファサードだけは予算の中で山手の「新歌舞伎座」にふさわしいモダンで端正なデザインにして、建築家たる意地を見せたところが、大衆文化が爆発的に台頭している新宿の雰囲気の中では人々の嗜好に合わず、設計者の意図は狙い通りには伝わらなかったようだ。 このことは、劇場建築の第一人者である僊石政太郎としては計算違いだっただろうし、悔しかったに違いない。「故に筆者は未熟も不省(ママ)既存の例を表に挙げて参考に資したいと思ふ」という言葉で、僊石政太郎はパンフレットの文章を締めくくっている。(続く)
ちなみに、「僊石政太郎」をGoogleで検索した時、2番目にヒットするのは流一さんの「ぼくの近代建築コレクション」の富士館だ。丹念に建物を撮りためていらっしゃるのには敬服した。

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